いただいたご意見・ご感想
2024年8月23日
「手記 ― 病院の面会規則を体験して」を7月に書いて友人・知人と共有し始めてから、1か月半ほどになります。その間、多くの友人から反応をもらいました。過去1、2年以内(コロナ後)に親や祖父母を病院や老人ホームで亡くした友人も何人かいて、それぞれの体験を共有してくれました。自分が通っている病院の今の面会規則はこうだよ、と教えてくれた友人もいました。
こうして情報をもらい、自分でも少し調べてみて、病院によって面会規則がかなり異なることが分かってきました。コロナ前と同じ規則に戻っている病院があることも知りました。その病院では、面会は13時から18時までの間なら予約なしで毎日可能、時間制限もなく、相部屋の場合は一度に2人までという人数制限があるのみです。これは、私の住む米国の病院と似たレベルの自由さでした(米国の病院の情報については後述します)。
振り返るきっかけと時間を持った結果として、自分の認識が甘かったことを痛感しました。父が最初に入院した病院で「週1回、1回15分」と言われて、コロナだからこんなものかと思ってしまったこと。患者本人が認知症で病状進行の認識がないなか、病院からも知らされない状況に甘んじていて、家族がもっと守るべきだったということ。悔いが残りました。
十分に面会させてくれない病院、すなわち患者の家族をシャットアウトするような姿勢を取る病院は、そもそも選ばないか転院するなどして、患者と家族が意思表示することで、自然淘汰が進むようにしていかなければならないと感じるようになりました。
過去1か月半ほどの間に友人・知人からもらったフィードバックを紹介しながら、私が感じたことをまとめてみることにしました。いくつかのトピックに分かれますので、以下のように見出しを立てています。各リンクから、順不同でお読みいただけます。
◇ ◇ ◇
ルール絶対・融通の利かなさ
一連の出来事を体験して私が不満に思ったのは、遠方に住む家族が訪ねてきている時や患者の死が近い状況でさえ、「例外は認められない」で、個別の対応をしようとしない病院の硬直した体制でした。なぜあんなに冷たいのか。なぜあんなに融通が利かないのか。同じ病院で同じ日に何十人もの患者が臨終を迎えているわけでもないのに、この患者の一家族を面会させないことが本当に感染症対策として重要なことなのか。疑問が残りました。この私の疑問に対して、友人・知人からいくつか指摘がありました。以下、いくつか抜粋して引用します。
———————————————
■仕事で病院の調査をしたことがある友人
一般企業に比べてかなり上から目線のマネジメント層の方が多かった印象があります。そして、マネジメント層が決めたルールを破れない雰囲気を、現場の方から感じたことも多々あります。
院長に反論した外来患者に対して怒鳴ったり蔑んだ発言をしたりている場面で、スタッフの方が近くにいても無視を決め込む状況に遭遇したことや、事務長の私への理不尽な振る舞いに対して後からスタッフの方が謝ってくれたこともありました。
こうしたマネジメントの下での現場は、自ら良い悪いという判断を行うことは許されず、また毅然と意見を述べられないのでしょう。日本の場合、従業員を首にしにくいので、歯向かったスタッフをいじめてやめさせるといった陰湿な行為につながりやすいのでしょうし。
規則は、例えば遠方とはどこからどこまでの範囲であるかとか、重篤な状態とはどの状態かとか、その定義ができないので、それならすべて一律で扱うことが患者や家族に説明しやすいといった、変な論理がまかり通ります。現場で融通をきかせると、あの人には面会させたじゃないか!とクレームを入れてくる人が怖いというのも根底にあるように思います。
———————————————
■2022年10月に老人ホームで身内を看取った友人
コロナワクチン未接種者は2022年10月時点でも面会は不可だったので、私は最期会うことはできませんでした。1年以上前のワクチンでも接種さえしていればOKという謎のルールでした。私は2か月前にコロナ罹患済みでワクチン接種者より安全だったと思うのですが。
私の体験は病院ではなく老人ホームですが、合理的な意味が感じられない(少なくとも私は納得できない)独自ルールにより家族が面会できず、入居者(患者)は外と遮断された世界でどんどんボケていき、結果として家族も分からない状態で亡くなっていくという状況に疑問を感じました。
———————————————
■海外在住歴の長い友人
今回の件は、現代日本が抱えている抜本的な問題が表面化した1つの例ではないかということです。それは、人々が自分でモノを考えることがなくなり、言われたことをひたすら忠実に行っていくようになっているという事実です。本来なら、医者、看護師、それぞれが患者や家族の立場に立てば十分理解できることなのに、それが「決められたこと」ということで疑問を持たずに、そのままシステムを走らせているとういことが空恐ろしいです。こうした状況は会社でも全く同様の状況を観察することができます。教育がいけなかったのか、社会構造なのかはわかりませんが、事実として日本人の多くが物事に疑問を持たずに生活するようになっているのは事実だと思います。一部では平和ボケという説もありますが、確かにそれもあるかもしれません。
———————————————
■教育に原因があるのではという見方の友人
日本はルール絶対! ルールを守らない人は非常識。ヨーロッパなんかだと、割と融通が利くことが多いじゃない? 交渉の余地があるというか。日本はそうじゃないよね。ルールの中身がなんだろうと、それを守ることが正しい、ってなっちゃうの。
私もずっと組織の中で働いていて、その中に居たから、私もそうだったので余計に、過去の自分にも腹が立つよ。もっと人間らしく生きたいと思うわ。
———————————————
決められたルールをきちんと守るのは、日本人の良さだと思います。だからこそ、新幹線が時速300キロで数分おきに運行できる、社会の効率の良さが実現するのだと思っています。治安の良さも、ルールを守る人が多いからこそ実現することです。でも、規則の本来の目的を考えずに、ただ「決まりだから」で物事を進める側面が日本の社会にあるのも事実です。私は仕事柄、英語の契約書の翻訳をすることがよくありますが、「契約条項の文言と精神に則って」という表現がよく使われます。これは「法の文言と精神」という考え方から来ているものですが、決まりには「文言」と「精神」の2つの側面が存在するという認識を表しています。規則を文字どおりに遂行するだけでなく、規則の意図を達成しようとすることを意味します。
面会制限が本当に「感染症対策」なのであれば、感染症対策として本当に有効性があるのかどうかを考えることです。プロトコルに従うことが重視される医療の世界では、柔軟性のない文化が作られがちかもしれません。簡単な答えがあることではありませんが、バランスの問題です。バランスを欠いてまで規則を押し通さず、患者の安全を守るという規則の本来の意図や、患者と家族をケアするという病院としての使命の間で、もう少しバランスを取るべきではないでしょうか。
◇ ◇ ◇
人出不足の問題
人出不足を指摘する声は、複数の人から受けました。事実、同じ面会制限を体験した私の母も、「もっと面会できたら良かったのに」とは思っていても、私のように「おかしい」とまでは思っていなくて、「病院は人出不足だし、スタッフにあれこれ言うのも可哀想だ」という感想でした。人出不足の問題について、友人・知人から受けたフィードバックを紹介します。
———————————————
■2023年9月に病院で身内を看取った友人
入院患者さんのご家族?からのアポが多すぎて、これらの対応に先生・看護師さんがめちゃ忙しそうでした。ご家族の皆さんは心配されているのは分かるけど、結構理不尽な要求をしている人、文句を言っている人、たくさん見ました。あれじゃ、本業(治療)できないじゃないって思って見ていました。実は弟がその類の人でした。文句ばっかり言って、先生とすぐにアポを取る。迷惑極まりないと思っていました。私も妹も母も、いつも主治医に謝っていました。先生はいつも「私の仕事は治療もありますが、お話を聞くことも大事な仕事ですから~」っておっしゃっていました。
———————————————
■長期入院の経験がある友人
面会時間の提案のところは、日本の今の医療現場では実現は厳しいなと感じました。(理由は)人手がない、医療に対してのお金がない、病棟が狭い、などでしょうか。コロナ以前にしか入院していないので、その時点での私の体験ですが、何か聞きたいことがあっても、先生はなかなか会えないし、ナースは忙しすぎて、用事があっても話しかけるのも怖い時があったりして、頃合いを見て話しかけたりしていました。地雷ナースが必ず1人はいるので、見極めないと、とんでもなく嫌な気持ちや傷つくことになります。それもこれも、多分だけど、人手がなくて忙しすぎるのが、ある程度関係しているのかなと感じます。
———————————————
人出不足は、確かに深刻な社会問題です。でも、私が体験したような面会制限のあり方を正当化する理由にはならないと感じています。様々なことを十把一絡げにして「人出不足だから」でやり過ごす風潮を作るべきではないと思っています。レストランやホテルや小売店が人出不足でサービスの質が落ちているという話であれば、「人口が減少している国なんだからしょうがない」で受け入れることもできるかもしれませんが、人の生や死に立ち会う現場とでは、経営上の理由と利用者へのサービスの間で取るべきバランスが本質的に異なるだろうと思うのです。
これから超高齢化していく日本にあって、最も希少なリソースになっていくマンパワーを、教育・医療・警察消防などのエッセンシャルなサービスに傾けていくという点で、社会全体のバランスをシフトしていくべきだと考えるのが正論ではないでしょうか。電車の本数が減ろうが、小売店が間遠になろうが、最終的に社会として必要なものは何か。子供や若者が学校で働きたい、病院で働きたいと思うような仕組みを、市場経済・民主主義の国としてどうやって作っていくか。コロナのロックダウンという稀有な演習を経て、社会が健全であるために何がエッセンシャルかは、多くの人が多少曖昧でも認識したと思います。その経験を、今こそ活かしていく時ではないかと思うのです。
◇ ◇ ◇
米国の病院の面会規則
手記を読んでくれた友人の一人から、「アメリカはどうなっているの?」と聞かれて、私もまったく知らないことに気付きました。地元カリフォルニア州サンディエゴで主治医のいるスクリップス病院のウェブサイトを見てみたところ、案の定、制限と言えるような規則はほとんどありませんでした。以下、かいつまんで紹介します。
- 毎日8時~20時30分(時間外の面会を希望する人はご相談ください)
- マスクは不要(呼吸器系の症状がある人はマスク着用が義務)
- 風邪やインフルのような症状がある人は来るべきではない
- コロナの検査やワクチン証明は不要
- 12歳以下でも大人の同行があればOK
- 1室につき同時に2人まで(部屋の状況などによって順繰りにするなどの対応)
いずれも「原則」であって、基本的には状況によりけりで、何はともあれ「患者の安全」が最優先という雰囲気が感じられました。驚いたのは、患者本人がコロナ陽性でも面会ができること。ただし、その場合は、マスクのほかにメガネや保護衣の着用が必要とのことです。
私の街で一番大きいカリフォルニア大学サンディエゴ校の大学病院のウェブサイトも見てみましたが、面会時間は8時~20時で状況によっては例外可という程度の説明で、やはり「制限」などと言えるような規則は見当たりませんでした。
何よりも印象に残ったのは、スクリップス病院の面会についてのガイドラインを記載したウェブページに行くと、冒頭が「Visitors can be good medicine for patients in the hospital.」という書き出しで始まっていて、患者にとって面会がいかに「良薬」になり得るかを確実に認識していることでした。
◇ ◇ ◇
本当に感染症対策なのか
実はこの点は、私が最も「疑い」を抱いている部分です。うがった見方ですが、そもそも「感染症対策」というのは口実であって、面会者が出入りしないほうが病院として管理がしやすいから、コロナの時に導入された面会制限を続けているだけなのではないか。率直なところ、そんなふうに思えてなりません。
同様の見方は、友人からのフィードバックにもありました。
———————————————
一度厳しくしたら、元に戻したくない力が働いてしまうことは事実だと思います。病棟も粗が見えたら嫌だからっていうのもあるのでしょう。学校が授業参観をやりたくないのと同じ感覚のように思います。
———————————————
私が思うに、日本って、一度始めたことをなかなか止められないのよ。会社でも、社会でも。私の住んでいるマンションの管理室も、未だに不潔そうなビニールシートをカウンターの上にかけていて、人の唾がいっぱいついていそうで気持ち悪いよ。コロナ禍の時に付けたんだろうね。それを誰も外そうとしないのよ…。
———————————————
要は、病院に面会制限を緩和する意志がないことが、何よりも大きいのではないかと思うのです。だから、冒頭で述べたように、病院によってまちまちの規則が存在するのでしょう。コロナ前と同じ規則に戻していて、面会は13時から18時までの間なら予約なしで毎日可能、時間制限もなく、相部屋の場合は一度に2人までという人数制限だけをしている病院が存在するのです。このように良心的・人道的な病院は、患者にとって面会がいかに「良薬」になり得るかを認識している病院なのではないかと思います。
長期入院の経験がある友人は、次のように言いました。「面会が予約制で1回15分なんてことがずっと続いてしまったら、患者として本当に心細いし、病んでしまうと思います」。
好ましくない病院はいずれ淘汰されていくかもしれませんが、正しい方向に淘汰が進むように、患者や家族が声を上げていくことも大事だと思います。
最後に、友人からのコメントで、最も心に残ったものを紹介します。「家族が亡くなる時って、家族で過ごす時間は、誰にとっても、とても厳粛なイベントで、貴重で大切な時間だと思うのよ。それがこんな風に踏みにじられるっていうこと、本当に許せないと思ったよ」。
鈴木智草(すずき・ちぐさ)
info@chigusasuzuki.com
このページの最終更新日:2024年9月2日
■手記のページのリンク(https://chigusasuzuki.com/ja/voice/)をできるだけ多くのお友達やお知り合いと共有していただけないでしょうか。「私の知り合い(の知り合い)が書いた手記です。一理あると思ったので共有します。シェア自由です」のような文言を添えていただけると良いかもしれません。ハッシュタグを付けていただけるなら、#hospitalvisitなどはいかがでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします。
■患者と家族の権利を守る法令について、お詳しい方がいたら、現状について教えていただけないでしょうか。そういう法制度や業界の自主基準はすでに存在するといった情報、その種の制度化を目指すのであればこのような方面に働きかけるべきだといったアドバイス、何でもかまいません。どうぞよろしくお願いいたします。